ゴルフで損失バイアスが多いのはオリンピックの性質のせい?【行動経済学がパリ五輪を支配する#5】
8月4日に行われたゴルフ男子では松山英樹選手は、スコアを6つ伸ばし、通算17アンダーで銅メダルを獲得した。日本のゴルフ男子では初のメダル獲得となり、日本中が熱狂した試合となった。
歴史的快挙を成し遂げた松山英樹選手について、『行動経済学が勝敗を支配する』の執筆者でスポーツアナリストであり、行動経済学とスポーツ分析を掛け合わせた研究を行っている今泉拓氏は、最終日での戦い方について注目した。
オリンピックは他の大会と違い、大会自体には賞金の制度はない。つまり、メダルをもらえない4位以下の順位の価値が極めて低い状態だと予想される。今泉氏はこの賞金がないという状況だからこそ起こった今回のプレーについて語った。
松山選手は最終日のボギー数が他の選手に比べ少なく、その分バーディーも少なかった。この結果から、今泉氏は松山選手が他の選手に比べてリスクを取らないプレーをしていたように見えたそうだ。松山選手は保守的にプレーすることで、自分の順位をキープすることができたのではないか。
あくまでも推測に過ぎないが、松山選手は2021年のマスターズでも今回と似たプレーで優勝している。この大会で松山選手は1日目、2日目と首位を走っていた。最終日では他の選手からの追い上げもあった。しかし松山選手は焦ることなく落ち着いた様子で自分の順位を守るプレーを行った。その結果、2021年のマスターズでは優勝した。
この経験があったためオリンピックでの試合でも順位を守る保守的なプレーが行えたのではないかと今泉氏は考察した。
松山選手が「守り」の姿勢で戦ったのに対し、スペインのジョン・ラーム選手は終始「攻め」の姿勢でのプレーが目立った。
ラーム選手は3日目まで絶好調で首位を走っていた。最終日の試合では、10番で2位の松山選手との差を4打差にした。しかし最終的に金メダルを獲ったスコッティー・シェフラー選手が怒涛の追い上げをし、これに対しラーム選手は11番以降も攻め続けた結果、ミスが続き最終的には順位を大きく落とし、5位で試合を終えた。
このラーム選手のプレーについて、今泉氏は損失回避バイアスが働いていると語った。人間は損の状態、このままでは負けてしまうという状況においてリスクを取りがちである。その結果、無理な攻めをしてしまいかえって悪いスコアになってしまったのではないだろうか。
これがオリンピックではなく賞金のある大会であればここまで攻めるプレーではなく守りが含まれるプレーになっただろう。オリンピックのように賞金がなく、名誉のために試合を行う場合、人はリスクを取りやすくなるのではないかと今泉氏は述べた。
『行動経済学が勝敗を支配する』日本実業出版社
著者:今泉拓
東京大学大学院学際情報学府博士課程に所属。認知科学・行動経済学の研究をしている。学部時代からスポーツ分析にも取り組み、行動経済学✕スポーツで第18回出版甲子園準優勝を経験。日本実業出版社より『行動経済学が勝敗を支配する-世界的アスリートも”つい”やってしまう不合理な選択-』を出版。
発売日: 2024/06/14
ISBN:978-4534061102
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