バレーボールで攻めのサーブは正解?【行動経済学がパリ五輪を支配する#6】
重要なサーブ
5日に行われたバレーボール男子準々決勝で、日本はイタリアに2-3で敗れ、52年ぶりのメダル獲得とはならなかった。
日本は第1、2セットを連続で奪ったものの、第3、4セットをイタリアに取られ、フルセットにまでもつれる熱戦となった。
そんな中、第5セットのあるプレーが物議を醸している。15-14と勝利まであと1ポイントとなった場面で、小野寺太志選手がサーブミスした場面である。
小野寺選手を擁護する声が上がった一方で、ミスを非難する声もあった。
このプレーについて、スポーツアナリストであり行動経済学とスポーツ分析を掛け合わせた研究を行っている今泉拓氏が得点率の計算を用いて語った。
攻めたサーブは正解だったか?
今泉氏は、日本ーイタリア戦のデータのうち、サーブレシーブに着眼した。イタリアの日本戦におけるサーブレシーブ成功率は53.3%であった。つまり、約半分の確率でサーブレシーブに失敗していたということだ。
ここで、実際にイタリアの得点率はどの程度だったのかを計算してみると、49%という数値になった。
下記の計算式が、イタリアの得点率を求める簡易的なモデルである。
イタリアの得点率 = 日本のサーブが入る確率 * スパイクの成功率 + 日本のサーブが入らない確率
この試合の実際の数値を当てはめると、
0.85 * 0.40 + 0.15 * 1.00 = 0.49
となる。
一方で、日本が安全にコート内に入れるサーブをした場合の得点率は、スパイクの成功率をXとすると、
1 * X = X
である。
コート内に入れにいくサーブは、サーブレシーブが成功し、かつフルパワーのスパイクを打てる確率が高い。つまり、イタリアのサーブレシーブが成功し、フルパワースパイクをした際の得点率が0.49を上回る場合、日本は入れに行くサーブではなく、攻めたサーブをするべきと言える。
実際の試合では、イタリアのサーブレシーブが成功したとき、フルパワースパイクを打てる確率は、おおよそ7~8割とみられ、明らかに通常のサーブをしたときよりも得点率が高いと見込まれる。よって、日本の作戦として、攻めたサーブを選択したことは、統計的には合理的であったといえるだろう。
視聴者の心理
以上より、小野寺選手の攻めたサーブは非難を受けるようなプレーではないと考えられるが、どうして非難の声が上がったのだろうか?
その原因について、今泉氏は視聴者に損失回避バイアスがはたらいていると考えた。
損失回避バイアスとは、得をすることよりも、損を避けるような選択肢を取ってしまいがちになる認知バイアスのことである。
普段あまりバレーボールを見ない人がオリンピックを見たとき、「サーブで失敗するくらいなら、確実にコート内に入るサーブをするべきじゃないか」と考えてしまうことが損失回避バイアスにあたる。こうした考えの人が、攻めたサーブに対して否定的な意見を持ってしまったのではないだろうかと推測した。
統計や認知科学など、様々なデータを用いるようになっている現在のスポーツ界において、ファンもこうしたデータを知ることで、よりスポーツを楽しめるようになるだろう。
*参照データ
https://olympics.com/OG2024/pdf/OG2024/VVO/OG2024_VVO_C83_VVOMTEAM6-------------QFNL000100--.pdf
https://olympics.com/OG2024/pdf/OG2024/VVO/OG2024_VVO_C69_VVOMTEAM6-------------QFNL000100--.pdf
『行動経済学が勝敗を支配する』日本実業出版社
著者:今泉拓
東京大学大学院学際情報学府博士課程に所属。認知科学・行動経済学の研究をしている。学部時代からスポーツ分析にも取り組み、行動経済学✕スポーツで第18回出版甲子園準優勝を経験。日本実業出版社より『行動経済学が勝敗を支配する-世界的アスリートも”つい”やってしまう不合理な選択-』を出版。
発売日: 2024/06/14
ISBN:978-4534061102
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