学生の私が本を書けたワケ 今泉拓さん ー東大博士課程から出版甲子園で商業出版を果たしたその秘訣はー

学生商業出版コンテスト「出版甲子園」。独自の視点を持つ学生たちが、実行委員と企画のブラッシュアップを重ねて商業出版を目指す。今回は大会への応募を検討している学生に向けて、第18回(2022年)大会で『行動経済学が勝敗を支配する』を出版した今泉拓さんから話を聞いた。(取材:編集局長 管原秀太)
──初めての応募は第10回(2014年)大会。出版甲子園に応募したきっかけは何だったのでしょうか
本を読むことが好きで、商業出版に対してかねてから憧れを抱いていました。学部1年のころに大学構内で出版甲子園の立て看板を目にして応募を決めたのですが、この時は一次審査で落選しました。
── 一次審査落選の原因は何だったのでしょうか
企画の内容に独自性がありませんでした。センター試験(当時)数学の裏ワザ解法を紹介するというもので、今見返すと落選は妥当だと思います。類書が多い分野に参入するならば、独自のメソッドを打ち出すべきでした。

── 「行動経済学が勝敗を支配する」は8大会ぶりの応募となりました。企画書提出にあたって意識した点はあるのでしょうか
一次審査の落選を経験してから、私は学生生活に専念し、出版甲子園への応募は控えていました。第18回(2022年)大会へ応募したのは、博士課程に進学して行動経済学を専攻する中で、私自身が持つ知識や経験に独自性を見出したからです。当時はスポーツを題材にした行動経済学の認知度が低く、その分野にまつわる実用書も少なかったため、企画内容には一定程度の自負がありました。その他、自己アピールや需要分析など、フォームでは記入事項を多くして気概をアピールしました。
博士課程在学中での応募だったため、企画に若々しい印象が無いのが不安でしたが、専門性を評価していただけると信じて企画書を提出しました。また、論文執筆の経験を活かして、章立ても工夫しました。冒頭では万人が楽しめるような話題を提示し、徐々にニッチな話題を織り込む意識を持ちながら構成案を練ったのですが、これは出版に至るまで殆ど手を加えられませんでした。博士課程に在学していたアドバンテージを上手く活かせたのではないかと思っています。


第18回大会での企画書
──第18回大会では順調に選考を通過したように見受けられます。修正を要した点はあったのでしょうか
アカデミアの世界に身を置くものとして厳密な言葉遣いをしなければと心がけていたのですが、一般層向けに本を書くうえではそれがネックとなりました。
例えば確率に言及するうえで、私は数字を正確に表記したかったのですが、そこに指摘が入りました。「ほとんど」や「だいたい」という言葉を用いた方が、読者もスムーズに読めるということでした。
そうした使用語彙のすり合わせに時間を要しました。その分、アカデミックな説明はコラム欄を設けて行うことになりました。
──出版甲子園では実行委員と応募者が二人三脚となって企画案のブラッシュアップを重ねますが、その制度についてどのように感じていますか
非常に有意義でした。私のみで書き進めると、どうしても独りよがりの内容になってしまうところを、団体員の皆さんが適切に指摘してくださったと思います。
読者層の設定とそこに向けたアプローチが明確化され、本のゴールというべきものが定まりました。
また、私の企画はスポーツを題材にしていたのですが、団体員の方はスポーツに対して十人十色の態度を取られており、様々な角度から意見をいただけたのもありがたかったです。
──18回大会では準グランプリとなり、無事出版が決定しました。執筆の負担はどれほどのものでしたか
スキマ時間を活用し、1週間で4~5時間ほど時間を割いていました。論文と一般書の執筆は頭の使い方が異なりますから、気分転換にもなり、無理なく書き進められました。
──自著を出版するメリットは何なのでしょうか
書籍はコンテンツとしての持続期間が長く、多様な層にリーチします。そこで得られるコネクションはキャリア形成で大いに役立ちました。私の場合ですと研究者に加え、大学野球部や元プロ野球選手の方にも本を読んでいただき、多くのご縁をいただきました。群馬県の新聞社に声をかけていただき、コラムの執筆も行っています。学生が本を出版することは珍しいことですから、研究者との間ではよく話のネタになります。
──最後に、出版甲子園への応募を検討している方へメッセージを
審査を通じ、己の企画案に磨きをかけていく作業は研究者を志望する身として良い経験でした。サイエンスコミュニケーションの訓練になりますし、この大会を通じて一般層向けの文章が書きやすくなったと感じています。
中高生や学部生の方はもちろん、修士・博士課程在学者にも出版甲子園への応募を推奨します。

今泉拓
1995年生まれ。東京大学理科2類に入学、教養学部に進学しコンピュータサイエンスを専攻。東京大学大学院学際情報学府では、認知科学・行動経済学を専攻。データ分析と大学での研究をもとに、行動経済学とスポーツ分析を掛け合わせたスポーツの発展や技術向上に力を入れている。第18回出版甲子園で準グランプリを獲得し『行動経済学が勝敗を支配する』を上梓。現在は鹿屋体育大学の助教を務める。
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