【出版甲子園インタビュー】会社員×作家×ボードゲーム作家 ― 武野光さんに聞く、企画の生まれ方

第7回出版甲子園に出場し、『自己PRするネタがない就活を複数内定で終わらせるために 凡人内定戦略』を出版された武野光さん。

現在は会社員として働きながら、小説家・脚本家・ボードゲーム作家としても活動されています。今回は、出版甲子園への挑戦を振り返りながら、「企画はどのように生まれるのか」「人を惹きつける文章を書くには何を意識しているのか」、そして現在の働き方についてお話を伺いました。

出版甲子園に応募したきっかけ

Q: 出版甲子園に応募したきっかけを教えてください。 

A: 当時は就職氷河期で、空前の「就活本ブーム」でした。僕自身は決して誇れるような大学生活を送っていたわけではなかったのですが、試行錯誤の末に内定をいくつかもらえたんです。そこで「アピールポイントが何もない人間が、どうやって内定を取るか」についてブログに書き始めたら、一定の反響がありました。「これはいけるかもしれない。どこかに持ち込めないか」と思っていた時に出版甲子園を見つけました。 元々小説家になりたかったのですが、理由は「かっこいいから」というだけでした(笑)。活字が特別好きだったわけでもありません。でも結果的に、最初の5年間は就活関連で4冊の本を出していただきました。

Q: 最初に出場された時も、「ゆくゆくは小説家として執筆をライフワークにしたい」という思いがあったのでしょうか? 

A: 出版界においては、デビューするのが一番難しいと思います。「本を出したことがある人」と「ない人」とでは、出版社から見た時の信用度が桁違いだからです。だから、まずはどんな形でもいいから出版してしまえば、その後、自分が本当にやりたかったフィクションの執筆に繋がりやすいのではないかと考えました。就活で例えるなら、「内定を1つ持っている人」と「内定ゼロの人」では、面接官からの信用度が全く違うのと同じ感覚です。

「つまんない」への逆張りから生まれた企画

Q: ご著書『凡人内定戦略』でも、人を感動させる(心を動かす)ことは意識されましたか?

 A: 既存の就活本を読んだ時、ブチギレそうになったんです。自己PRの例文が「留学に行っていました」「体育会系です」とかばかりで、「いや、それは上位20%の話で就活本としてそもそも成り立ってないだろ」と。しかも内容が本当につまらなくて、読ませる気がないと感じました。だから、その完全な「逆張り」をしようと思いました。 自己PRのネタがない人に向けて、実体験をベースにちゃんと面白く読めるものを書く。笑いも感動の一つだと思うので、笑わせながら「なるほど!」と思わせたり、少しでも勇気を与えられたりする要素を盛り込みました。そうすれば他にない本になるから、デビューできるチャンスがあると考えたんです。

Q: 最初から「笑いを取りつつノウハウを提示するスタイル」を考えていたのですか? 

A: 僕はブログ出身ということになるのですが、僕が中学生くらいのときは面白いテキストサイトが全盛期で、僕自身の原体験にもなっています。だから『凡人内定戦略』で急に文字が太くなったり大きくなったりするのはその影響です。自分が読んで面白かったブログというフォーマットを、就活本に置き換えた感じですね。だから『凡人内定戦略』は横書きなんです。

実用書も小説も「感動させる」という目的は同じ

Q: 実用書と小説では、書く時のマインドセットは違いますか? 

A: 以前、とあるノンフィクションをAudibleで聴いたのですが、凄惨な事件を扱った事実ベースの話でありながら、読み物として非常に面白かったんです。オチもしっかりありました。つまり、ジャンル問わず書き方次第なのだと思います。 実用書であれ自己啓発本であれ、役割は「読者に考えを提示して感動させること」だという気がします。極端な言い方ですが、読者を気持ちよくさせたら勝ちです。読んだ人がそのあとに何か行動するかどうかは本人次第ですが、「感動させたい」という目的は実用書でも小説でも変わりません。

論理で納得させ、笑いで受け入れやすくする

Q: 人を引きつける文章を書く上で、意識されていることはありますか? 

A: 『夢をかなえるゾウ』の著者である水野敬也さんの本に激しく影響を受けています。「何かを伝えたい時は、絶対に論理が必要で、納得させないと感動は生まれない」という手法をかなり参考にしています。もちろん僕なりの解釈です。 ただ論理だけをつらつら書いても計算式と同じで誰も読んでくれません。だからそこにギャグや自虐を交えて、自分を少し低く見せることで、読者に受け入れてもらいやすくしました。 ただ、小説の場合はこの「論理」だけでは語りきれません。一定の納得感は必要ですが、論理だけでは割り切れない感情の動きを描くのが小説だと思っています。

Q: 小説ならではの表現について、工夫されている点はありますか? 

A: 兄が『賭ケグルイ』という漫画の原作をやっている漫画原作者ということもあり、よく漫画の表現について話すのですが、初心者の方によくある失敗として「絵で見ればわかることを、わざわざ言葉で説明しすぎる」というのがあります。漫画や映画は、絵や映像、音楽の複合体なので、すべてを言葉にする必要はありません。 小説は文字しかありませんが、考え方は同じ気もしていて、語れば語るほど、薄っぺらくなると思っています。情景や仕草を描写して、読者に想像させる。なるべくはっきりと書きすぎない。過度な遠回しはエンタメ性を損なうので好きではありませんが、読者の想像力に委ねる使い分けは意識しています。

好きな作家の文体を「完全にパクる」ことから始める

Q: 小説を書き始めた当初、難しさを感じることはありましたか? 

A: それほど難しさは感じませんでした。高校生の時に初めて応募した作品で「素人離れしている」というリップサービスの評価をもらい、すっかり天狗になったんです(笑)。ただその内実は、大好きだった夢枕獏先生と貴志祐介先生の文体や作風をイメージの中では「ガンパクリ」したものでした。もちろんストーリーやネタはオリジナルですが、「俺は夢枕獏だ」と思い込んで、文章のリズムや書き方を真似たんです。 自分の好きな作家の表現方法を、自分の知識や経験則に当てはめてみる。そうすることで「自分が表現するならこうなる」というコツを早く掴むことができました。僕の場合ですが、何かを表現する時はだいたい自分が過去に触れて感銘を受けたものがベースになります。貴志祐介先生からは、「小説はエンタメであり、読者を面白がらせるのがベストなんだ」ということを教わりました。もちろん僕が勝手にそう解釈しただけです(笑)。

一冊は誰でも書ける。二冊目以降が本当の勝負

Q: ブログをもとに本にする際、苦労した点はありますか? 

A: かなり書き直したり書き足したりしたので作業自体はありましたが、1冊目を出すのは本当に楽しかったですね。ゲラが出た時は「俺プロじゃん!」と感動しました。 ただ、あえて言わせてもらうと、「1冊目は誰でも書ける」と思います。どんな人でも、人生のどこかを切り取れば絶対に面白いエピソードを持っていますから。本当の勝負は「2冊目以降」を続けられるかどうかという気がします。 僕にとって本を出すことは、目的ではなく、何らかの自己実現をするための強力な手段でした。出版甲子園の皆さんや、当時拾ってくださった編集者の方には今でも心から感謝しています。

■ まとめ ― 企画を考えるうえでのヒント

武野さんの話から見えてくるのは、「面白い企画」は特別な発想力から生まれるのではなく、既存の型への違和感や逆張りから生まれるということです。「つまんない」と感じた既存の就活本への反発が「凡人内定戦略」の出発点になり、「論理で納得させ、笑いで受け入れやすくする」という構造が、実用書としての説得力を支えました。さらに、漫画や映画から学んだ「言葉にしすぎない」技術は、小説を書くうえでの引き算の発想として活かされています。

そして何より、「好きな作家の文体を真似してみる」という最初の一歩の踏み出し方や、「一冊は誰でも書けるが、二冊目以降を続けられるかどうかが本当の勝負」という言葉は、これから本を出したい人、企画を考えている人にとって、実際に手を動かし始めるための背中を押してくれる視点になりそうです。

本を出したい人、企画に悩んでいる人にとって、武野さんの「逆張りの発想」「論理と笑いで感動をつくる技術」「一冊出したあとどう続けるか」という視点は、これから企画を考えるうえで大きなヒントになりそうです。

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