「"学生"の私が本を書けたワケ」戦死した曾祖父を追い続けて商業出版へ─牛谷雅さん─

学生商業出版コンテスト「出版甲子園」。独自の視点を持つ学生たちが、実行委員と企画のブラッシュアップを重ねて商業出版を目指します。今回は、第20回大会で準グランプリを受賞し、12月17日に『8月15日に終わらなかった戦争 「占守島の戦い」で散った曽祖父を追う』を出版する、牛谷雅さんにお話を伺いました。(取材:広報局 河野日奈)

──出版甲子園の存在を認知したきっかけは何だったのでしょうか?

 もともと第19回大会のゲスト審査員だったQuizKnockの河村拓哉さんが好きで、河村さんのYouTubeを見ていた際に出版甲子園の存在を知りました。当時は曾祖父のことを調べ始めてまだ半年ほどだったので、第19回大会には間に合わなかったのですが、翌年の第20回大会に応募しようと決めました。

──企画を応募する際にどんなことを意識していましたか?

 戦争に関する本は自伝が多くて、どこか独りよがりになりがちな印象がありました。加えて、調べてみたら自費出版のものが多かったんです。そんな中、「どうしたら手に取ってもらえるのか」という点でターゲット層は意識していたと思います。

(写真1,2:当時の企画書)

──当初は「占守島の戦い」の事実を描いていく企画でした。それを牛谷さん自身に焦点を当てる物に変更しましたが、そのときの心境はいかがでしたか?

 変えることに抵抗はありませんでした。自分が出せる価値というものを考えた結果、調査の中で私自身が経験したことや、その経験を通して感じたことに焦点をシフトしたのは良かったと考えています。

──企画を応募してから実際に出版するまでの期間で、「頑張ったな」と感じたのはいつでしたか?

 「ずっと大変だったな」とは思います。就職活動や卒業研究の期間と、執筆期間が被っていたのでそこの両立が特に大変でした。ただ、文章を書くのに苦労はなかったので、執筆をすること自体は楽しかったです。

(写真3:全国戦没者追悼式にて)

──もともと本はお好きだったのでしょうか?

 そうですね、好きでした。執筆以前から読んではいましたが、やはり執筆を始めてからは読書量が増えたと思います。

──印象に残っている本や、思い出深い本はありますか?

 私が日本史にハマったきっかけでもある『ねこねこ日本史』が印象に残っています。小学生の頃によく読んでいました。

 最近だと百田尚樹さんの『永遠の0』ですかね。私の企画とテーマが近かったということもありますし、戦争経験者が多かった時代を描いたリアルな作品で、登場人物の心情描写にも共感できる点がありました。

──「本」という媒体が持つ特色や強みについて、どのように考えていますか?

 信頼性というのが、他のどの媒体と比べても何よりの強みだと思います。細かい表現にまで気配りがなされているので、私自身、より正確な情報を伝えることができたと感じています。

 また、本だと後世に伝えやすいという強みもあると感じています。SNSやブログはサービスが終了してしまったら見られなくなってしまいますが、本は図書館などに残ります。そのため、私が意識していた「継承」という点では適切な媒体だったと思います。

──牛谷さんの企画では、調査への積極性が印象的です。調査を進めていく中での原動力は何でしたか?

 初めは「日本史が好き」というのが大きかったと思います。ただ、調べていくうちに戦争の歴史や曾祖父がどういう境遇だったのかという点にも興味を持つようになりました。「曾祖父のことを伝えられるのは自分しかいない」という使命感のようなものもあったかもしれません。

(写真4:曾祖父である牛谷功さんの弔辞)

──出版甲子園には決勝大会までの期間から実際の出版に向けた機関まで、担当者が付く制度があります。この制度についてどう思いますか?

 率直にとてもありがたいと思います。決勝大会までの期間は、企画へのフィードバックについて一緒に考えたり、三次審査の休憩時間で発表練習を一緒にしたりということがありました。出版のオファーをいただいてからも、出版社の方とのメールのやり取りや原稿へのフィードバック、ミーティングの際の議事録作成といった部分で助けていただきました。

 また、心理的な面でも支えが大きかったです。同世代の人がその場にいてくれるというのは心強いと感じました。

──牛谷さんが本書を通じて伝えたいメッセージは何ですか?

 まずは、戦争について「知ること」と「考えること」が重要だということです。戦争について身近な視点から考えることはなかなか難しいですが、1番身近な”家族”という存在は戦争について考えるきっかけになるのではないかと思います。

 また私自身、家族について調べていく中で祖母や大叔母に話を聞く機会がありました。そういった「世代を超えた家族のやり取り」も、今の時代には少なくなってきていると思うので大事にしてほしいです。

──戦争の記憶を若い世代の人々に継承していくことの意義は何だと思われますか?

 私は、記憶の風化が1番の問題だと考えています。今の時代、語り部の方がお話をされることはありますが、数年後にはそれさえも難しくなってしまいます。そういった中で、若い世代であっても何かできることがあるのではないかと、私は思っています。だからこそ、戦争について考えるきっかけを本書で提供したいです。

──最後に、これから出版甲子園に応募する人たちへのメッセージをお願いします。

 私は、誰しもが自分にしかない強みを持っていると考えています。それを出していってほしいです。

 私は、決勝大会への出場が決まった時も、出版が決まった時も、「本を出したい」という気持ちより「自分にしかできないことをやりたい」という思いが強かったです。その思いのおかげで他者にはない経験ができましたし、その経験を就職活動などに活かすこともできました。学生のうちに出版をしたい人はもちろん、そうでない人にとっても、自分にしかない強みを発見するうえで、出版というのは良い経験になると思います。

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