「“学生”の私が本を書けたワケ」医学生としての学びを出版に生かす-中川朝子さん-②

―実行委員会の団体員が二人三脚で企画をブラッシュアップしていく、担当者制度について感じたことなどはございますか?
担当者の方には、本当にお世話になりました。決勝大会に向けて企画をブラッシュアップする段階では、担当の講元さんと、より良い企画にするために何度も粘り強く議論を重ねました。
他にも、出版社への訪問に同行してくださったり、出版後に寄せられた厳しい口コミへの対応をサポートしてくださったりと、きめ細やかな支援をいただけたことを大変ありがたく感じています。
本を書いて出版するというのは、基本的には孤独なプロセスです。小説の執筆でも担当編集者はつきますが、作品そのものは最終的に自分一人で書き上げなければなりません。そうした中で、初めての商業出版にあたり、年齢の近い担当者の方々に二人三脚で伴走していただけたことは、とても印象に残る貴重な経験でした。
―もともと小説を書いていたというお話をいただいたと思うのですが、こちらの企画の応募で実用書を書くにあたって、小説と違った点や逆に共通する点がありましたら、教えていただきたいです。
小説との一番大きな違いは、「事実に責任を持つ」という点でした。小説であれば自由な発想で物語を組み立てられますが、実用書では、一つひとつのネタについて根拠となる文献を調べ、内容に誤りがないか確認しながら執筆を進める必要があります。全体の構成を考えながら章立てを行い、それぞれの内容を積み重ねていく作業は、小説とは全く異なる難しさがありました。
実際に出版する本として世に送り出す以上、「本当にこの記述でよいのか」と何度も立ち止まって確認することも多く、知識に対して誠実であることの重みを実感しました。
一方で、小説を書いてきた経験が役立った部分もありました。『呪いを科学する』は締め切りまで約1か月と非常にタイトなスケジュールでしたが、普段から長い文章を書き続けてきたおかげで、まとまった分量を書くこと自体には抵抗がありませんでした。
ー中川様が当時企画応募された時、医学部の三年生だったということで、かなりご多忙だったのではないかと思います。出版甲子園の作業と学業との両立について詳しくお伺いしたいです。
思い返してみると、決勝大会へ進むまでにも何度か審査があり、その度に企画書やプレゼンテーションの準備に多くの時間を費やしました。一方で、当時はコロナ禍でオンライン授業が中心だったため、通学時間を執筆や準備に充てられたことは大きかったと思います。
また、医学部の勉強との両立は決して楽ではありませんでしたが、自分にとっては企画書を作ったり小説を書いたりすることが、むしろ勉強のよい息抜きにもなっていました。うまく気持ちを切り替えながら取り組めたことが、最後まで続けられた理由の一つだったと感じています。

↑大学卒業時の中川さん。ご卒業後は都内の病院で勤務されている。
ー担当者や編集者さんとのやり取りの中で、想定外だったフィードバックや改善するポイントなどはありましたか?また、フィードバックについての思い出などがあればお聞かせいただきたいです。
ディスカヴァー・トゥエンティワンでは比較的スムーズに企画が通りました。ただ、それまでの審査や他出版社とのやり取りを通して、最も繰り返し指摘されたのが「想定読者を明確にすること」の重要性でした。
例えば、同じ実用書でも、青少年に向けて書くのか、それとも大人を対象にするのかで、文章の構成や表現は大きく変わります。私自身は、呪いやオカルトに詳しい人だけではなく、初めてこの分野に触れる人でも手に取りやすい「入門書」のような本にしたいと考えるようになりました。
審査員や担当者の方々との議論を重ねる中で、「誰に届ける本なのか」を意識するようになった部分が大きいと思います。
ーフィードバックの過程で、ターゲット層が当初の予定とは変わっていったということでしょうか。
そうですね。もともとは、オカルトが好きな人や、ある程度知識のあるコアな読者に向けた内容をイメージして企画書を書いていました。ただ、商業出版として考えると、それでは読者層が限られてしまうかもしれないというアドバイスをいただきました。そのやり取りを通じて、専門的な内容でも、幅広い読者が入りやすい本にするという視点を意識するようになったと記憶しています。
ー『呪いを科学する』は、もともと中川様が呪いだったり、オカルトの話が好きで、そこに着想を得て、企画を応募されたのでしょうか。
もともと魔女の登場する物語が好きで、オカルトにも強い興味がありました。いつかそうしたテーマで小説や本を書いてみたいという思いは以前から強かったです。
―貴重なお話、ありがとうございました。最後に、出版甲子園への応募を検討されている方にメッセージをお願いします。
少しでも興味があるなら、ぜひ一度応募してみてほしいと思います。私自身、最初に企画書を出したときは、まさか商業出版につながるとは想像もしていませんでした。
また、企画を考えるうえでは、自分にしかない強みや、「なぜその企画を書きたいのか」という原点を大切にしてほしいです。私にとっては、中島らもさんの『ガダラの豚』との出会いが、その原点でした。そうした強い動機や熱量は、企画書にも自然と表れるものだと思います。ぜひ自分だけの強みを信じて挑戦してみてください。
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