「“学生”の私が本を書けたワケ」高校生が2年間インドで過ごした経験をもとに出版 - 熊谷はるかさん-

学生商業出版コンテスト「出版甲子園」。独自の視点を持つ学生たちが、実行委員と企画のブラッシュアップを重ねて商業出版を目指す。今回は、第16回大会でグランプリを受賞し、『JK、インドで常識ぶっ壊される』(河出書房新社)を出版した、熊谷はるかさんにお話を伺いました。自分の経験を企画書に落とし込むコツや独自性の出し方、そもそもなぜ本を出すのかについてなど、企画書を作成中の方、そもそも応募自体を迷っている方も必見です。(取材:編集局 佐藤和花)

──11刷目ということですが、このような反響を受けて率直な感想をお願いいたします。

 自分でもあまりピンと来ていないです。出版から3,4年経っているのに、未だにこうやって色々な人に手に取っていただけるのはすごく嬉しいことですし、読者の方の層も少しずつ広がっているようで、すごくありがたいなと感じます。

──熊谷さんは現在海外の大学で学んでいらっしゃるということで、海外では高校生から課外活動に励むことは珍しいことはないと思います。高校生の時は、本を出そう、出版甲子園に応募しようという決断はすぐにできましたか?

 なかなか決断はできなかったです。書くことは元から好きだったので、自分のために書いていたものはあったのですが、中高生では世に出すという発想にはやっぱりなりませんでした。

 出版甲子園を見つけてからも、大学生の方が中心という風に見えたので、高校生の自分が出していいものかと結構悩んだのですが、出して損はないだろうと思い切って、締切日前日とかに焦って書き上げて出しました。一か八かで出したものが最終的に審査を通って、私の意図を汲んでくれる担当者の方と「一緒により良いものに作り上げていこう」という風になれたのは、すごくラッキーだったと思いますし、こういう機会がなかったら自分から(出版業界に)飛び込もうと思わなかったかもしれないです。

第16回大会の企画書

──出版甲子園には『JK、インドで常識ぶっ壊される』の反響を受けて、毎年多くの海外経験を盛り込んだエッセイの企画書が多く寄せられます。    

 自分が体験した出来事、特に海外での経験をエッセイないし企画書に落とし込むコツなどがあればお教えいただきたいです。

 これは海外について書くということには限らないのですが、まず自分の視点がどこから来ているのかを俯瞰して考えることから始まると思います。書くこと自体、自分の外に広がる世界、そこに存在するひとやものを自分の言葉で表現するという点で、つねに自己と他者の往復運動というような営みです。なので、ただ相手がどうだということばかり書くのではなく、自分が相手についてどう考えているのかを突き詰めると、なぜ自分が書かなければいけないのかという必然性が見えてくると思います。

 他者について書くこと、言葉を使ってひとつの像を作ることの暴力性みたいなものは必ずあると思っていて、それを踏まえた上でなぜ書かなければいけないのかを見出せると、力強いものになると思います。なので、なるべく今までどんな人がどのようにその事柄について書いてきたのかを調べて、その上で、では「なぜ自分が新しいものを提示する必要があるのか」というものを言葉にできたら、もちろん読者も楽しめるし、自分で書いているときも迷いが少なくなるはずです。

 そして何より、自分本位にせず、書く対象の他者にも主体性があることを忘れないこと。私の場合、そういう現地のひとの声や生活の息吹を汲み取り言葉にしたい、という意思があったからぶれずに書けました。

──エッセイ作品、特に海外をテーマにしているものとなると、どうしても似通った企画書になりやすいと思います。本作品は、若者、ひいては女子高生の視点からインドを紐解くという、これまで出版されていたインドの経済的な面などを掘り下げるお堅い本とは一線を画すような特徴を持っています。

 独自性の観点やユニークさを引き立てる観点から、企画をブラッシュアップしていくコツはありますか?

 世界の見え方は人それぞれなので、自分にどう見えているのかをはっきりさせることが大事だと思います。たとえばそれがステレオタイプに寄っているもので、罪悪感を覚える見方だとしても、ではなぜ罪悪感を覚えるのか、なぜ自分がこの見方に違和感を覚えるのかと掘り下げて考えていくと良いと思います。

 ユニークさで言うと、自分1人だとなかなか見えない部分もあるので、他の人の意見を聞くのは大事だと思います。必ずしもその人のアドバイスを全部100で受け止めなくても良いとは思うのですが、自分がどうやって映っているのかを知れるので、色々な人と話してみることは良いことだと思います。

 出版甲子園では担当者がつくので、私の場合は担当者の方と二人三脚で、二日に一回ほどオンラインで話していたくらい、たくさん話し合いを重ねて、企画書やプレゼンの内容を作っていきました。

市街の風景

──応募される企画書の中には、伝えたいこと、最終的に読者に何を得てほしいのか、が明確ではないものもございます。熊谷さんは応募の段階からメッセージの軸のような部分は変わらないのでしょうか?

 変わっていないと思います。インドにいる時から、日本などで語られる「インド」と自分が実際に経験している生活に大きな差があり、違和感を覚えていました。その齟齬の部分を実際にインドの生活を見る事ができた立場として言葉にする必要があるなと、そのギャップを自分が書くことで埋められたらいいなと感じていました。

 それが軸になっていたのですが、強いもの、熱を持った核のように本質的な部分だけをそのまま伝えようとすると固い内容になってしまい、書き手の独りよがりな印象が残って読み手にとっては楽しくなくなってしまいます。それを踏まえた上で、当時は自分が女子高生だったという立場をいかして、コーティングではないですが、色々なものを重ねて尚且つその軸をぶれさせずこちらの熱量を受け取ってもらえるかということが、企画を練っていく上で、さらには書いていく上で大事にしていた過程でした。

──特に昨年第20回大会で大きなテーマだったのが、本という媒体で発信していく意義でした。これは企画書を書く上でも、決勝大会でプレゼンをする上でも大事な観点になっています。インターネットが発達し、様々な情報が簡単に得られるようになった今、本という媒体で発信する意義はどんなものがあると思いますか?

 なぜこの企画を本にする必要があるのかという質問は、私も決勝大会や審査の質疑応答などで聞かれてきました。その時答えていたのは、どうしてもYouTubeやnoteといったインターネットの媒体は自分で好きなものを選べてしまうということです。例えば、インドについてだと面白い部分だけをピックアップして、格差などの重いトピックは見ないようにすることは容易にできると思います。しかもインターネットはそういうものに分かりやすい文言や目立ちやすい文言ばかりが引き抜かれて、そこだけが切り取られてしまうことがすごく多いです。 私はそういう時代だからこそ、本でうんと丁寧に書いていく必要があるのではないかと思っています。やはり簡単に世に出せるものや時間をかけないで作れるものはその分簡単に消費されてしまうし、すぐに代わりとなるものが見つかって忘れられてしまう、いわゆるインターネットの波に流されてしまう、そこに一冊の本にする意味があると思っています。

スラムでのデモの様子

──特に学生が本を持って発信する意義は、どういうことだと思いますか?

 言葉は年齢に関わらず、誰もが持っているものです。言葉の力はみんな平等なので、誰の言葉が聞かれてもいいと思いますし、価値のあるものだと思います。年齢や経験を含めて、色々な視点の色々な声や言葉を世に出していく、「学生だから」というのはあまり関係なくて、「学生だからこそ」ということはあると思います。

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